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2022年5月12日 (木)

現在の旅券は外務省設置法違反

皆さんが海外両行に際して手にする日本の旅券の最初の頁に書かれてある文章を読んだことがありますか。殆どの人は全く関係のない文章としてその意味を理解することは皆無だからです。

 

現在の旅券には以下の文章が記載されています。

 

日本語
『日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。 日本国外務大臣(公印)』
英語
『The Minister for Foreign Affairs of Japan requests all those whom it may concern to allow the bearer, a Japanese national, to pass freely and without hindrance and, in case of need, to afford him or her every possible aid and protection. 』

 

なお、日本語では「要請」となってますが、英語では「request」となっています。でもその意味するところのニュウアンスは 英語の方が強いと思うのです。

 

 

この旅券の文章を熟読するともし海外で何らかの問題、例えば事故とか災害に逢った時、日本の大使館は基本的には何らの手助けをしてくれないのです。つまり、そのような場合、もし日本人が海外で何らかの援助を必要とするような場合には滞在国政府にその援助をお願いしますと旅券に書かれてあるからです。

 

 

この旅券に書かれてある文面は旅券が最初に発行された明治時代と殆ど変わりがないことなのです。最初の旅券に書かれてある文面は以下のようになっていました。

 

「右ハ『官命ニ依リ佛國、英國、伊國、獨國及ビ米
國ヘ』(以下余白)赴クニ付通路故障ナク旅行セシ
メ且必要ノ保護扶助ヲ與ヘラレン事ヲ其筋ノ諸官ニ
希望ス

 

ここで興味のあることは、当時の文面には「希望」との用語が使われていたことです。

 

このように何か問題があったら、なんとか援助をお願いします、と言うのが明治以降連綿として日本の旅券に記述されているのです。

 

 

しかし、意外と知られていないことは外務省設置法という法律があることなのです。この設置法という法律の中に書かれてあるのは「海外における法人の生命及び身体の保護」と言うことなのです。つまり、海外での邦人保護は政府の責務なのです。

 

しかし、現実には日本の旅券には邦人保護の原則は該当滞在国の政府にお願いしますという明治時代の慣習そのものを未だに平気で日本の旅券に記載しているのです。これと似たような文章をわざわざ旅券に記載しているのは世界の国の中でも日本だけなのです。

基本的には現在の旅券に記載されている文章はある意味では法律違反なのですが、誰もこの文章に関しては関心がないのです。

 

因みにこの法律はなんとつい最近になって出来たのです。
平成十一年法律第九十四号
外務省設置法
目次
第一章 総則(第一条)
第二章 外務省の設置並びに任務及び所掌事務
第一節 外務省の設置(第二条)
第二節 外務省の任務及び所掌事務(第三条・第四条)
第三章 外務省に置かれる職及び機関
第一節 特別な職(第五条)
第二節 特別の機関(第六条―第十二条)
第四章 名誉総領事及び名誉領事(第十三条)
附則

 

第四条 外務省は、前条第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
一 次のイからニまでに掲げる事項その他の事項に係る外交政策に関すること。
イ 日本国の安全保障
ロ 対外経済関係
ハ 経済協力
ニ 文化その他の分野における国際交流
二 日本国政府を代表して行う外国政府との交渉及び協力その他外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)に関する政務の処理に関すること。
三 日本国政府を代表して行う国際連合その他の国際機関及び国際会議その他国際協調の枠組み(以下「国際機関等」という。)への参加並びに国際機関等との協力に関すること。
四 条約その他の国際約束の締結に関すること。
五 条約その他の国際約束及び確立された国際法規の解釈及び実施に関すること。
六 日本国政府として処理する必要のある渉外法律事項に関すること。
七 国際情勢に関する情報の収集及び分析並びに外国及び国際機関等に関する調査に関すること。
八 日本国民の海外における法律上又は経済上の利益その他の利益の保護及び増進に関すること。
九 海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に関すること

 

 

ここで問題なのは九項にある法文なのです。この法文は明らかに現在の旅券の最初の頁に書かれてあることとは正反対なのです。もっとも、この条文だけでは具体的にどうするかとの記述がないので、もしかしたら「そのような場合には外国政府に依頼することであり、現在の旅券に書かれてあることと矛盾はしません」との答えが返ってくるかもしれません。

 

 

或いはこの外務省設置法と言うのは単なる指針であり、この法律に違反してもなんらの罰則もないので、現在の旅券に書かれて文章自体は法律違反の対象にはならないのです、となるかもしれませんね。