二次元(時系列検証)メディア出現の意義 (再掲)
新聞記事を二次元的(過去と現在)に捉えて、過去と現在との組み合わせで政治家や行政などの価値判断の材料の手段としての比較分析を目的としたメディアを提唱したい。二次元報道は何も前言の揚げ足をとるといった週刊誌的な発想ではなく、あくまでもどのような環境、状況下でそのような発言時の結果が達成出来なかったのか、どの程度の進展度が得られたのかなどの反省材料にもなる筈である。このような視点からもっと国民が政治に関心を示せば日本の政治はより良いものになると思う。
新聞は毎日読んで、読んだらそのまま捨てるというのが一般常識です。しかし、時には以前の新聞がなんらかの機会に目に触れることがあります。例えば、包み紙に使われていた古い新聞とか、物置の隅から出てきた新聞などを改めて読むことがありますが、そのような時に「あれ、あの人はあの時こんな事を言っていたのか」、「このような発言、批評は今からみると正にその通りになっているではないか」などいろいろな新しい発見があるものです。「ああ、そういえばこんな事もあったんだな」、「あのときあの人はこんなことを表明していたが、どうして今はそのような事が忘れられてしまったのだろうか」、などなど実にいろいろな思いが巡らされるものなのです。
しかし、一般的にはそのような機会はめったにありません。なにしろ新聞は一回読んだら捨てられる運命にあるからです。勿論、理論的には図書館に出向けば前の(場合によってはかなり昔の)新聞を閲覧することは出来ます。しかし、特別な調べ物があるような場合以外には普通はそのような機会は与えられません。
現在のマスメディアの代表である商業新聞の記事はそれぞれの時点での報道であり、しかもある一面から観た報道であるのですが、意外と読者の多くはその一時性(或いは一過性)、一面性という要素を忘れて何らの抵抗もなくそれらの記事の全てを正面から鵜呑みして信じてしまうという魔性が新聞にはあります。しかも、通常の新聞報道の最大の弱点はある時点での報道に関連した過去の記事にまでも同時に言及することは全くありません。この場合の過去の記事への言及とは書かれてある内容の誤りなどの訂正ではなく、その内容の時間的変動を意味します。つまり、報道された内容が数日後、数週間後、数カ月後になってその報道と異なる内容の場合、余程のことが無いかぎり新聞紙上にて過去の比較・参照記事としては現れないのです。特に、政治関連、経済関連の関係者の発言などはその典型的な例ではないでしょうか。
いつもの例で、何か事件が起きた当初の関係者の最初の発言、コメントは「いや、絶対そんなことはありません」、「全く存じておりません」などと公言されていても、その後の事態の進展に伴い、そのような過去の発言が全くの嘘であることは我々新聞の読者がしばしば経験することです。しかし、それが数カ月ないしそれ以上も経ってからの報道では以前の発言内容を詳細に記憶している読者は少なくなっています。もし、そのような時に当時の発言内容などが並行して参照記事になっていればその当事者に対する印象、記事から受ける印象は全く別な物になる筈です。
最近の狂牛病に関してのEUと日本の農水省とのやりとりが比較・参照記事として詳細に新聞報道されていますが、あのような例は極めて例外ではないでしょうか。その意味では狂牛病に関しての比較記事は国民一般へのメッセ-ジとしてはかなりインパクトが強いものになっている筈です。このように考えますと、政治家、行政担当者などの過去の発言、行動などを過去のものと常時比較しながら日常の記事と並行して読むことが出来るならば国民の政治への関心も一層強くなるのではないでしょうか。いずれにしてもこのような比較参照記事が並行して要約されるようになれば極めて有益なものとなると考えられます。しかし、現時点ではそのようなことを既存の商業紙に期待するのは不可能です。
現在の新聞報道はそれぞれの時点での状態、状況を表現しているに過ぎないのです。つまり、点情報なのです。ましてや、その内容が政治の将来性、経済予測などに関連している場合には、極端な表現を借りるならば、責任が伴わない全くの言い放し、報道のし放しなのです。つまり新聞記事が語る記載内容は一次元の世界での出来事と解釈するべきなのです。それぞれの分野の専門家と称する人達がいろいろな分野、特に政治・経済分野で自分の知識、経験から将来を新聞紙上で予測したり、コメントしたりしているのは日常茶飯事です。しかし、これらの予測やコメントはその時点での見解であり、果してそのような発言が将来とどのような関連があるのは全く無関心、無関係なのです。
時折、週刊誌などで政治家の過去の出来事を洗いざらい持ち出してあたかもそのような過去の出来事と現在の立場とが関連あるような記事が面白、可笑しく書かれることはありますが、問題は他人のあら捜し的な記事では困るのです。いろいろな分野の人達の過去と現在との発言内容を比較してそれぞれの行政当局、専門家(殊に政治家)などの資質を問うような記事が欲しいのですが、現状ではあまりそのような並行比較参照記事は多くは見かけません。専門家というのはその時点での専門家であり、時間の経過がその専門家の資質を変える可能性(良い面でも、悪い面でも)があることはほとんどの場合不問に付されているのが普通なのです。新聞の一般読者はとても数カ月、数年前に同じ専門家が同じ問題に対してどのような発言、行為をしていたのかを記憶していることは極めて難しいのです。
例えば、薬害に関して当時の厚生省の担当官が発言した内容がその後の経過とともにどの様に変遷してしまったのかを知ることは一般読者にとっては至難の技なのです。これが裁判沙汰にでもでもなればそのようなことが表面に出てきて新聞にも詳細に報道されますが、一般的には裁判とか事件にならない限りいろいろな人達の過去の言動、行為などを改めて知る術はないのです。その他の例では選挙運動中の発言と当選後の言質との乖離を指摘することは普通の読者には極めて困難なのです。今日のようにいろいろな情報が満ち溢れている社会ではそれぞれの責任ある人達の発言、批判、評論などを自分の頭の中に常に記憶しておくことは不可能なのです。それに引き換え、コンピュタ-の世界ではそのような過去の資料からの情報の引き出しは極めて簡単です。確かに、今日のような激動の社会、世界では一年前の考えはすでに陳腐なものになってしまうかもしれません。しかし、責任有る地位にある人たちはそれぞれの発言、発表にはある程度の責任というものが伴わなくてはなりません。まして、これが政治家となると尚更です。
その他の例では、最近のイスラエルとパレスチナの問題が挙げられます。両国の現時点での関係は極めて残念ながら時代を逆戻りするような悲劇の連続です。でも、一二年前にはもうすこしでというところまで両者の関係は旨く進展していたのです。当時の新聞を現時点で読み返してみますと実にその頃の情勢がありありと蘇ってくるのです。そのような理解があればどうして僅か一二年の間に今のような暗黒の世界に逆戻りするようになってしまったのかという反省の余裕も出てくるものです。
さらにその他の例として、良く年頭の所感とか抱負などが恒例のようにそれぞれの関係者から述べられますが、一年後に果してそれらの抱負などがどのくらい叶えられたのかなどの反省記事はめったに見られませんし、一般のマスコミもあまりそのようなことには関心が無いようです。年頭の所感とか抱負などはある意味では全く責任のない都合の良い一時点での発言に過ぎない場合が多いのです。
そこで、筆者が提唱したいのは、新聞記事を二次元的に(つまり、過去と現在とにわたって)捉えて、過去と現在との組み合わせで政治家や行政などの価値判断の材料の手段としての比較分析を目的としたメディアを出現させることです。もし、このようなメディアがあったら社会にどれほど貢献するかわかりません。つまり、ある専門家(政治家、経済学者、大学教授など)や行政当局などの発言の過去との繋がりを即座に並行・比較参照記事として読者に提供することです。
このことは何も週刊誌的なゴシップ記事的なものを求めるのではなく、時間の流れの中でそれぞれの専門家と称される人達が責任をもって絶えず発言、批判、コメントをするという枠作りに貢献することなのです。つまり、現時点での発言、発表に対してあなたはかってはこのように言っていましたが、どうして現在ではそのように変化したのか、などとの見解を間接的に求めることにより、発言への責任感とともに将来へのより有意義な飛躍にも繋がるのではないでしょうか。せびこのような比較記事を主体にしたメディア(紙の媒体でも電子媒体でも可)を出現させたいものです。
例えば、過去10年の日本社会について、このような解析をしてみれば、いかに同じようなことを、何回も繰り返して来たか、明確になるのではないでしょうか。この二次元報道は何も前言の揚げ足をとるといった週刊誌的な発想ではなく、あくまでもどのような環境、状況下でそのような発言時の結果が達成出来なかったのか、どの程度の進展度が得られたのかなどの反省材料にもなり、さらに、未来のより良い対策の構築に寄与する筈です。このような視点からもっと国民が政治に関心を示せば日本の政治はより良いものになると思うのです。そのような意味でもこのような二次元マスメディアの出現が望まれます。なお、技術背景を考えるとインターネットメディアでは、紙のメディアに較べて、このようなメディアがより作りやすいに違いありません。
(2002/1/5 原稿作成 インターネット・マガジンWorld Readerに発表済、『日本・世界の再生』・もう一つの視点 WR1070、2002/1/22)