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2012年6月の記事

2012年6月25日 (月)

副作用因果関係評価はもう過去の遺物か?   ロッシュ社の例

最近、以下のような記事がありました。

副作用かもしれない8万件もの報告が適切に評価されていなかったことが定期査察で判明したことを受けて、Roche(ロシュ)社の薬剤安全性報告システムの欠陥を欧州医薬品庁(European Medicines Agency)が調査しています。8万件の報告には15,161件の死亡例が含まれており、これらの死亡例が疾患そのものの進行によるのか薬剤に起因するのかは判別されていません。

European Medicines Agency acts on deficiencies in Roche medicines-safety reporting / European Medicines Agency
EU agency raps Roche over lax drug-safety reporting / Reuters

 ロッシュ社本社ではもうかなり前から、副作用個別症例の因果関係は殆どなされていないのです。副作用個別症例の因果関係評価はファルマコビジランスの基本でもあり、またそれらの評価を積極的にすることにより間接的にそれぞれの副作用症例のデータの質が向上し、質の良いデータベースが社内的にも構築されるのですが、ロッシュ社のような国際企業では副作用症例数の極端なまでの増加により、社内での因果関係評価はもうかなり以前から軽視ないし無視されていたので、社内的には副作用の個別評価かなされていないのが現状で、したがって今回のEMEAの警告は当然なのです。

 それにしても、最近は副作用個別症例の因果関係の評価はもう過去の遺物であるかのような考えが極めて強くなりつつあるのは誠に残念なのです。

2012年6月18日 (月)

医薬品情報か医薬情報か ?

医薬品情報か医薬情報か ?


普段何気なく使っている表現に医薬品情報があります。例えば、企業が医療関係者に配布するいろいろな情報は医薬品情報となっているのが一般的です。そのほかにも日本医薬品情報学会もあります。さらに興味深いのはそれぞれの英語名なのです。日本医薬品情報学会はJapanese Society of Drug Informaticsとなっており、Drug Informationではないのです。しかし、JASDIの目的は「医薬品情報学に関する教育・研究の向上及びその応用並びに国内外の相互交流により薬学及び医学、医療の進歩向上に貢献すること」となっていて、たんなる医薬品の情報ではなく、薬学、医学、医療全体を視野に入れています。したがって、医薬品という表現よりも、この場合にはむしろ医薬情報が適しているとかんがえられるのです。それにしても、その英語名にInformaticsという表現を意識的に使ったのはどのような意図があったのでしょうか。もしかしたら、情報の管理、構築、蓄積などを研究対象とすことに主眼があったのかもしれません。そうだとすると、情報の内容、目的に関しては二の次になるのかもしれません。

ところが、日本の製薬企業内にある部署名には医薬情報部というのはありますが、医薬品情報部という表現は存在しません。また、JAPICは日本医薬情報センターとなっていて、日本医薬品情報センターではないのです。また、MRは医薬情報担当者であり、医薬品情報担当者ではないのです。また、それぞれの英語表現は医薬情報部はDrug Information Department、MRはMedical Representatives、JAPICはJapan Pharmaceutical Information Centerなのです。もっとも、医薬情報部はMedical Information Departmentが正しいのです。

つまり、医薬情報は単なる医薬品という一つの物品そのものを念頭に置いていると考えるよりは、前者のJAPICの目的に近いのです。したがって、理論的にはMRの表現がより意味があり、医薬情報担当者がDrug Representativesではないのですよとの意識付けが強いのです。なお、最近の企業内では医薬情報部という名称は少数派になりつつあり、最近では品質保証本部とかファルマコビジランス部などが主流になりつつあります。

もっとも、Pharmaceutical Informationとなると単なる医薬品よりはもっとその対象が広いものと考えることはできるかもしれません。現実に、JAPICは医薬品情報以上に文献検索などを含めた極めて広範囲にわたる分野をその対象としていることから、あえてpharmaceuticalという表現を選んだものと考えられます。日本語ではその真意を表現することは難しいのですが、英語名にするとまさにその通り、と肯けるものがあります。

そこでこれらの表現の違いを考えてみました。
 医薬品情報はその主体が医薬品という物であり、その物が及ぼすいろいろな現象をさまざまな角度から検証し、その結果を有効に活用するという概念と捉えてみました。その反対に、医薬情報となるとその主眼は医薬品のエンドポイント、つまり患者の治療という概念がその根底にあるものと考えたのです。うがった解釈をすれば、医薬情報の医薬は医学・薬学全体を念頭においているものと理解することもできます。

同じように考えると、MRが医薬情報担当者となっていることはその定義をみれば容易に理解することが出来ます。たとえば、財団法人医薬情報担当者教育センター(現在のMR認定センター)の「MR教育研修要綱」では、MRの定義を「医薬情報担当者とは、企業を代表し、医療用医薬品の適正な使用と普及を目的として、医療関係者に面接の上、医薬品の品質・有効性・安全性などに関する情報の提供・収集・伝達を主な業務として行う者」と定義しています。つまり、そのような行為により、より適切な患者の治療が促進されることを間接的に支援しているものと考えられるからです。

このように理解しますと、よく言われるように「名は体を表す」ように案外それぞれの表現にも微妙な違いがあるものです。

2012年6月 8日 (金)

薬剤疫学評価からファルマコビジランス評価への回帰

最近、私が書きました論説を以下のサイトからみることができます。

ここに書きました論説の内容は、ファルマコビジランスの正しい理解と、薬剤疫学への再認識についてのものなのです。周知のように、1990年代に薬剤疫学という概念が日本にも導入されましたが、当時はそのような概念は極めて新鮮に映り、これからは薬剤疫学全盛の時代になるとの大きな期待、意気込みもありました。実は私もその一人でした。その結果、薬剤疫学学会が設立されたり、一部の大学に薬剤疫学講座も開講されるようになりました。しかし、あれから二十年近くも経過してふとその過去を振り返ると、意外と薬剤疫学研究の成果が発表されていないのです。むしろ、最近では日本薬剤疫学会や国際薬剤疫学会での発表内容もファルマコビジランスの分野にまで枠を広げないと学会開催の意義が薄れつつあるからなのです。

つまり薬剤疫学の主目的のひとつとなっている医薬品の安全性についての研究といってもその基になるデ-タはそれぞれの副作用個別症例のデタであり、問題はその質なのです。したがって、薬剤疫学研究のために必要なデ-タベ-スの質が完全でなく、保証もされていないような内容のものである限り、薬剤疫学は理論だけが先行し、実際には何も意義のある研究成果は公表できないのです。また、現時点では行政はそのような研究を義務付けていません。したがって、今後はレギュラトリサイエンスの範疇で、薬剤疫学を如何に企業に義務づけることができるかを検討することになるのでしょう。

つまり、医療関係者をも含めて、患者それぞれの治療デ-タを克明に記録してあるデ-タベ-スがなくては薬剤疫学研究は絵に描いた餅に終わってしまうのです。

その解決策としては医療関係者にも薬剤疫学研究のメリットを認識してもらい、また企業も安全性関連の個別情報を軽微、重篤を問わずすべての個別症例の完全なデ-タを日常収集する努力が必要なのです。

もっとも、医療関係者にしてみれば、薬剤疫学は臨床疫学と同列に扱われ、それほどの必要性は認識されていないのです。ある意味では薬剤疫学は薬学関係者の独りよがりの理解たけなのかもしれません。

homepage3.nifty.com/cont/39_3/p613-36.pdf

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