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2011年5月の記事

2011年5月22日 (日)

旅券の文面を考えたことがありますか(***) 自己責任を考える

旅券の旅券に書かれてある文面を考えたことがありますか

 

  日本人が海外旅行するときにはかならず旅券が必要になります。多くの日本人海外観光客はこの旅券を始めから終わりの頁まで詳細に読んで検討したことがありますか。恐らく殆どの人はその旅券に印刷されている内容すべてを読んで、理解はしていないはずです。殆どの場合あなた自身の個人情報が旅券に正しく記載されてあるかどうかを調べるだけが精々ではないでしょうか。

 

この旅券の表紙の裏側、つまり最初の頁に「日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助をあたえられるよう、関係の諸官に要請する」と記入されているのです。ここで問題なのは「関係の諸官」の解釈です。英文にはall those whom it may concernとあり、きわめて曖昧な表現なのですが、この旅券の文面は日本が旅券を導入した明治時代から殆ど変更することなくすべての旅券に印刷されていたのです。その名残りがいまだに残っているのです。でも、どうしてこのような文面がわざわざ日本の旅券にいまだ記載されているのでしょうか。なお、1918年に発行された旅券にも同じような文面が既に記載されているのです。その頃の旅券と言うのは紙一枚だけのもので、「日本帝国海外旅券」となっていて、そこに書かれてある文章は「・・・ニ赴ク前期ノ者ヲシテ遠路故障ナク自由ニ通行セシメ且必要ノ場合ニハ保護援助与ヲ与エラレンコトヲ文武官憲請求ス」となっているのです。

 

1918

 

 

 

 

  そもそもこのような文面は海外の諸国政府・官憲に対しての依頼なのです。つまり、もしこの旅券所有者が海外で何らかの支障、困難があったときにはこの本人を助けてあげてくださいよ、との意味なのです。つまり、日本人が海外で困ったときには外国政府にお願いしますよ、との意図があるのです。ここには海外にある日本大使館、領事館は関係ないのです。

例えば、外務省が発行している「海外邦人ニュ-スレタ-」(平成15年 1月号)にも「旅券は、万一あなたの身に何かが起きた時、あなたに必要な保護と援助を与えるよう各国政府に対して要請している"公文書"でもあります」と明記しているのです。

通常の場合にはこの旅券の文章の意味を考えなくとも全く問題はないのですが、万が一何らかの事件、政変などが海外滞在中に発生した時にどのような援助が受けられるのでしょうか。このような場合まず日本政府、日本大使館は極端な例外を除いては殆ど何もしてくれません。このことは外務省旅券課の正式の返事でも「所持人が渡航しようとする外国当局に対し,安全に旅行できるよう通行の自由と適法な援助を公式に要請する公文書という側面も伝統的に持ち合わせています。」と言明されているのです。でも、こんな虫の良いことを平気で未だに日本の旅券に堂々と記載していることに日本政府はなんらの問題もないと考えているのです。

 

ともかく、海外で個人が何らかのトラブルに遭遇して、現地の領事館に助けを求めでもほとんどの場合、領事館は何もしてくれないのです。例えば、1985年の旧ユーゴスラビア崩壊にさいして、現地の男性と結婚した日本人女性も数多くいることが報道されていました。旧聞になりますが、当時の在留日本人リピチ都子さん救出に関する記事が日本の新聞に報道されていましたが、その記事を読んで考えさせられた事は、領事館の海外在留邦人への保護に対する対応でした。当時の新聞記事によりますと、リピチ郁子さんの救出に関してフリ-ジャーナリストの水口康成さんの尽力により彼女は日本に帰国することができたのですが、肝心の救出に閲して現地領事館の対応が極めて消極的であったとのことです。そして、それに関連した説明に子供をも含めたリピチ都子さんの国籍が不明、本人の帰国意思が不明だからなどの理由から領事館は何らの援助の手を差し伸べてくれなかったのです。

 

そのほかにも、1985年にニューヨーク近郊のアパートで日本人青年が銃犯罪の被害者となり射殺された時、この第一報を日本の両親宅に国際電話で総領事館から知らせがありましたが、その電話はコレクトコールであったとのことです。また、この両親がアメリカで訴訟をおこし、アメリカの検察当局に裁判開始を訴えるために渡米し、日本総領事館員に同行を依頼したところ、本省からの指示がないとの理由で断られたとのことでした。

 

また2001年の九月のニューヨークでのテロ事件で犠牲になった二十数人の日本人については日本の政府はまったく言及しておらず、小泉首相は国家首脳として責任ある対応をとっていませんでした。

 

いずれにしても海外在留邦人の救出とかのような最悪の事態が発生した場合の日本政府の基本方針はまず第一に米国政府に在留邦人の救助の依頼することにあり、日本政府独自の対策はないとのことです。海外在住米国人はどこの国にもかなりの数の人達がいるので、万が一の事態が起こった場合、米国政府は世界のいかなる地点にも自国の救援機を派遣します。それに日本政府は便乗しようといのが基本姿勢なのです。

 

たしかに、アフリカのような遠隔地に滞在している数人の日本人の国外脱出にわざわざ日本から救援機を飛ばすよりも、米国政府に依頼したほうが簡単です。しかし、これほど虫のいい話はありません。事実、米国政府はもし余裕があれば日本人も救出しましょうと声明しています。これは当然なことなのです。
つまり、個人単位の在外日本人に危険が及んでも日本人を保護する法的義務はないとのことです。

 

そのほかにも、北アフリカのアラブ諸国で発生したオレンジ革命に際し、その当時該当する国に何らかの形で滞在していた日本人はどのように扱われたのでしょうか。当時のカイロのデモ騒ぎで空港が閉鎖されたりしてエジプトに居る外国の観光客は空港で大混乱でした。日本の観光客も約千人近くがカイロ国際空港に足止めされていたとか。このことに関し日本の外相が駐日エジプト大使を外務省に呼び、エジプト航空に対し増便をお願いするとの要請をしたとのことです。中国や韓国など他の国が自国から救援機をカイロに飛ばしていたような状況下で、これほど無頓着、無責任な要請はナンセンスものなのです。そのような要請が当時のカイロの状況を理解すればそのような可能性が全くないことの認識がなかったのでしょうか。

 

もっとも、日本の旅券には上記に説明したように海外政府の諸機関たいして邦人の援助要請が謳われていますので、日本政府はよほどのことがない限りこの旅券に記載されてある文面を尊重して海外邦人救援機を飛ばすようなことは考慮しないのです。確かに、該当する日本人の数は少ないので、わざわざ日本から救難機を飛ばすような発想は日本政府には無かったのかもしれません。つまり、日本政府としてはあくまでも他人頼みなのです。

 

  これが単なる旅行者の場合には場合によってはきわめて危険を伴うこともあるのですが、この日本旅券を持っている限りその本人の安全に関しては全くの他人任せであることをあらためて認識すべきです。しかし、殆どの場合このような事態を十分に理解して、海外旅行する人は殆ど居ないと思うのです。つまり、そのような事態が起こるかもしれないということはいま原発に関連して使われている流行りの表現「想定外」なのです。

 

ちなみに、欧州諸国の旅券には日本の旅券に書かれてあるような文面の記載があるのはまず皆無です。もっとも、外務省旅券課の見解ではこれと同じような文章はアメリカや英国の旅券にも書いてありますので、それにならっているのです、との全くの能天気的な説明なのです。なにも他国の真似をしなくともよいと思うし、現在の国際環境から考えるとこのような古色蒼然とした文章は前世期の遺物と考えるべきではないでしょうか。

それにしても、更に奇異なのは「公用旅券」、つまり政府の役人が国の業務として外国に出かけるときには普通の旅券ではなく、「公用旅券」が交付されるのですが、そこにも普通旅券と全く同じ文章が書かれているのです。お役人が海外に出張した時も、海外で何らかの問題に遭遇しても政府としては何もしませんよ、と言うことを間接に説明しているのではないでしょうか。まったく常識では考えられないことなのですが…。

この文章は日本が旅券の発行をし始めた明治の時代から全く変わっていないのです。それはそうでしょう、日本が旅券を発行し始め、極めて限定された日本人が海外に出たときに頼りになるのはその国の助けなのです。ですから、日本人が困ったときにはどうぞ助けてあげてくださいとの嘆願状なのです。それが今でも連綿として続いているのです。

 

なお、この文面に関しての当局の回答は以下のようになっています。

 

「表紙裏面の文言についてご指摘をいただきましたが,パスポートは国として,その所持人の国籍や身分事項を証明するとともに,所持人が渡航しようとする外国当局に対し,安全に旅行できるよう通行の自由と適法な援助を公式に要請する公文書という側面も伝統的に持ち合わせています。そのため,今でもアメリカやイギリスをはじめ多くの国においてパスポート内に同様の記載ぶりが残っています。」
平成28年5月
外務省領事局旅券課

 

 

さらに重要なのはこのような文章の場面が現実のものとなった時のそれぞれの国の対応が問題なのです。すくなくとも今までの事例では一人の個人に対しての日本政府の対応はとても米英をはじめとした主要国との対応とは雲泥の差があるのです。このような事例の一部は拙著「誰も知らなかった常識の背景」に『海外在留邦人の保護と二重国籍問題』にても触れています。

 

なお、アメリカと英国の旅券の記載は以下のようになっています。

 

<米国パスポート文言・英文>
The Secretary of State of the United States of America hereby requests all whom it may concern to permit the citizen/national of the United States named herein to pass without delay or hindrance and in case of need to give all lawful aid and protection.
(和訳)米国国務長官はここに要請する、関係の諸官に、米国市民権者及び米国民として本旅券に記載された者を、遅滞なく、妨害なく通行させ、必要な場合は、総ての法定された援助及び保護することを(要請する)

 

<英国パスポート文言>
Her Britannic Majesty's Secretary of State Requests and requires in the Name of Her Majesty all those whom it may concern to allow the bearer to pass freely without let or hindrance, and to afford the bearer such assistance and protection as may be necessary.
(和訳)英国女王陛下の臣たる国務大臣は女王陛下の名において要請し要求する、関係諸官に、(本旅券所持する)旅行者を、自由にいかなる妨害なく通行させ、必要な場合は必要な援助と保護を与えられることを(要請・要求する)

 

でも英米の旅券に書いてあるから日本もそれを真似して書いてあるのです、との外務省の説明はまさに噴飯ものです。

 

なお、海外在住日本人が関連したトラブルなどについての海外領事館の対応は極めて消極的で、仕方がないからしてやるのだとの例はきりがないのです。このことに関して、私が以前に出版した本「誰も知らなかった常識の背景」の23章「海外在留邦人の保護と二重国籍問題」に取り上げています。

 

追記(2017 May)
現在の北朝鮮によるミサイル発射問題に関連して、万が一の時には韓国に滞在する日本人の引き上げをどうするかとの話題が報じられていますが、なんらの具体策はみられません。それは当然なことで、現在の旅券の最初の頁に書かれある文面を精読すれば当然なことなのです。
もっとも、最近の情報(20017 Nov)では外務省は在韓日本人の救援のことを考慮しているようですが、韓国の日本人がかなりの数になるので、おもい腰をあげているようです。

 

追記(20017 May)
以下の記事にも海外邦人救助に関した悲劇が載っています。

 

Japan On the Globe(1004)■■ 国際派日本人養成講座 ■■
Common Sense: 半島有事に邦人救出はできるのか?
 第2次朝鮮戦争が始まったら、3万人近い在留邦人を、日本政府は救出に行けるのだろうか?

 

 

このほかにも以下の書籍、並びにこの本へのへコメント(Amazon)が素晴らしいです。ぜひ読んてみてください。
【日本、遥かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」】 単行本 – 2015/11/20
門田 隆将 (著)

 

追記(2018 March)
最近の新聞報道によりますと、日韓両政府は「日韓安全保障対話」を開催し、朝鮮半島での情勢が緊迫した場合の邦人の退避についての協力を韓国に要請しています。この場合の「協力要請」がどのような内容なのかは不明ですが、基本的には日本がその対策を提言し、それに対し韓国が了解するという趣旨であるべきです。

 

 

追記(2018 Oct)
最近の朝日新聞に大杉栄のことが記載されていましたが、この記事によると彼が国際無政府主義者大会に官憲の目を盗んで渡仏し、現地の警察に逮捕されたとき、マルセイユの日本領事館が警察に話をつけて帰りの帰国船の旅費を出してくれたとのことです。まぁ、何事にも例外あるものです。

 

また、最近の新聞を賑わしている記事にフリ-ジャナリストの安田さんが三年ぶりにテロ組織から解放されて帰国した時に「自己責任論」が飛び出したことです。
でもどうしてこのような極論、暴論が出るのでしょうか。似たような事件とか遭難などがもし日本で起こった場合にはだれも自己責任論は出てこないのです。例えば、大雪が降る可能性のある時に冬山に向って、遭難し、助けが求められたような場合には、その本人に対して自己責任だとの非難はまず表面化しないのです。なぜなのでしょうか。この自己責任と言う非難は海外に滞在、居住している日本人の身に起こった場合のみに現れるのです。全く不思議なことですが、日本の旅券に書かれてある文面をよく咀嚼すると、なるほど、と解釈できるのです。

 

もっとも、法務省の説明では基本的には海外邦人がなにか事件に巻き込まれたような場合にも海外公館が援助するという法的な根拠はないと言明しているのです。もっとも、最近になってやっとテロのような場合の邦人援助に関しては救援をすることが出来るとの規則を新たに出しているくらいなのです。

追記(2019 Oct)

さいきん、中国で拘束された北海道の大学教授に関連し、政府の具体的な対応は全くなされていません。まさに、自己責任の解釈であり、旅券の文章を熟読すべきなのです。

 

 

 

 

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